FXにおける損切りの考え方として、定量的に100pipsの損失で損切りをするようにストップ注文を出すようにしている人もいれば、裁量トレードでそのときの”感覚”で損切りをしているという人もいるかと思います。
損切りルールを明確に決めている人は別として、裁量トレードをしている人の中には、現状のトレード手法の損切りルールを模索していたり、これからFXをはじめてみようと考えていて、”損切り”について知っておきたいという人もいるのではないでしょうか。
そこで、今回はFXにおける損切りをどう考えればいいのかということを、プロスペクト理論の「4分割パターン」をベースに説明していきたいと思います。
ちなみに「4分割パターン」とは、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、ノーベル経済学賞のダニエル・カーネマンのプロスペクト理論の中に登場する「確実性と可能性」をまとめた4つのパターンのことになります。
では、早速見ていきましょう。
相場はポジションの決済が最も難しい
FXでトレードをするときに買いポジションにしても、売りポジションにしても、ポジションを建てるというのは、決して難しいことではありません。
この先、上がると思えば「買い」、下がると思えば「売り」、究極的にはこの2点に集約されます。
しかし、一旦ポジションを抱えて、そこで含み益や含み損失が発生すると、そこから先をどうすればいいのか分からない・・・というのが、「相場では決済が一番難しい」と言われる理由になります。
例えば、上のように買いポジションを作ったレートを「参照点」として、含み損、含み益が発生した後、読者の方はどういったトレードを行うでしょうか?
この後、大きな含み益が出たら・・・?この後、大きな含み損になってしまったら・・・?などなど先のことを考えると今のポジションをどうするのかというのは、極めて判断が難しくなります。
そこで、人間本来の特性に焦点をあてて、それを研究したプロスペクト理論の「4分割パターン」をベースに裁量トレードで損切りを考えるというのが今回の趣旨になります。
プロスペクト理論の4分割パターン
では、早速、プロスペクト理論の4分割パターンをベースにFXでの損切りについて考えてみたいと思います。
先ほどのようにポジションを作った後、大きな含み益を得た場合、大きな含み損を抱えた場合、わずかな利益を手にした場合、わずかな損失を抱えた場合、それぞれの状況でトレーダーがどういった心理状態になるのかということを、4分割パターンに従って表にしたものが下記になります。
利益 | 損失 | |
---|---|---|
確実性の効果 | 【大きな含み益がある状態】 目の前の利益を確定したくなる 万一の落胆を恐れる リスク回避的なトレードになる | 【大きな含み損がある状態】 目の前の損失を確定したくない 損失を防ぎたい リスク追及的なトレードになる |
可能性の効果 | 【わずかな含み益がある状態・・特に証拠金が少ない場合】 もっと大きな利益を目指したくなる リスク追及的なトレードになる | 【わずかな含み損がある状態・・特に証拠金が多い場合】 もっと大きな損失を恐れる リスク回避的なトレードになる |
〇大きな含み益を抱えたとき
確実性の効果というのは、58%から60%よりも98%から100%の2%の方が人間が”重み”を感じやすくなるという効果で、今ポジションを決済すれば、大きな利益が「確実」で、目の前に見えている含み益について、非常に”重く”受け止めることになるという効果になります。
確実性の効果に従えば、大きな含み利益を目の前にすると、その利益を減らしたくないと考え、トレーダーはポジションを決済したくなる衝動に駆られることになります。
かつて、ジョージ・ソロスがあるヘッジファンドをしていたとき、そのファンドはある通貨に対して大きなポジションを抱えており、その後、予想通りに相場が動き、ファンドマネージャー達が利益が出たポジションを決済し始めようとしたところ、ソロスはそれを制止して、「買い増し」を指示したという逸話がありますが、ソロスは人間が本来持っている衝動を抑え、「勝てるときに大きく勝つ」ということを体現してきた、まさに投資界の”レジェンド”と言えます。
〇大きな含み損を抱えたとき
では、大きな含み損を抱えている場合はどうでしょうか。
トレーダーが最も損切りで注意を払うべきポイントはここになります。
確実性の効果でトレーダーは、自分が想定していた大きな含み損を目の前にすると、大きな含み益のときとは逆に、その損失を確実にすることを避けるために、今度はその損を取り戻そうと、確率的に低くても、リスクの高いトレードをして、損失をさらに膨らませてしまう行動をとってしまいがちになってしまうのです。
実際、筆者も2008年のリーマンショックのときに、自分が抱えたポジションで大きな含み損を抱えたとき、テクニカル的にもファンダメンタルズ的にも、通常の心理状態であれば決してしないような”ナンピントレード”をして、手痛い損失を生んでしまったことがあります・・・。
〇わずかな含み益がある状態・・特に証拠金が少ない場合
一方、可能性の効果の方は、例えば少ない証拠金で高いレバレッジをかけて大きな利益を手にすることができるかもしれないという、可能性は低くくても、”当たれば”大きな利益を手にすることができるときに、リスクを追及するという形で見られます。
実際のところ、筆者自身、FXをはじめようとした理由の一つは、少ない証拠金で大きな利益を手にできるチャンスがあると考えたからに他なりません。
ただ、そのチャンスというのが、どれくらいの確率なのか、また、自分が選択しているトレード手法にはどれくらいの優位性があるのかということは、証拠金が少ない場合は特に注意する必要があります。
わずかな利益を手にしたときに、レバレッジを高くすれば、もっと大きく利益を手にすることができるかもしれない!というリスクテイクの誘惑を前にすると、自分のトレードの勝てる確率=可能性を高く見積もりがちになってしまいますので、十分に気を付ける必要があります。
〇わずかな含み損がある状態・・特に証拠金が多い場合
また可能性の効果は、例えば、証拠金がある程度あるときに、少しの変動に対して過敏になってしまい、大きな損失が出てしまうことを過剰に心配する形になり、わずかな損失で損切りを繰り返すということになってしまいます。
損切りは悪いことではありませんが、細かく損切りばかりをしていると、今度は相場の上げ下げで損切りばかりになってしまうということになってしまいます。
順張り、逆張りにどちらにしても、ある程度は、自分のトレードスタイルを信じて、少々の含み損はリスクとして許容しなければ、相場で利益を手にするというのは難しくなってしまいます。
プロスペクト理論の4分割パターンから考えるFXでの損切りについて
「FXの損切りの考え方として・・プロスペクト理論の4分割パターン」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
4分割パターンをベースに考えますと、最も注意を払わなくてはいけないのは、リスクを追及してしまう「大きな含み損を抱えたとき」と「わずかな資金で大きなリスクをとってトレードをするとき」の2つです。
「わずかな資金で大きなリスクをとってトレードをする」→「大きな含み損を抱える」→「一か八かのトレードをする」
といった流れが最も警戒しなくてはいけないパターンになります。
そう考えますと、どんなに苦しい状況であっても、「わずかな資金で大きなリスクをとってトレードをする」→「大きな含み損を抱える」で留めておきたいところです。
「まずは、生き残ること。儲けるのはその後だ」と語ったのは、前出のジョージ・ソロスですが、筆者もこれまで何度も大きな損失を抱えてきましたが、相場で生き残ってこれているのは、致命傷にまで至らなかったおかげです。
4分割パターンから損切ルールの目安を考えるとしますと、
自分にとって「大きな損失」に至る前に、必ず損切りを徹底する
これが結論になるかと思います。