日本の上場企業や海外企業の多くが四半期ベースで業績を開示することを義務付けられているように、相場の重要な参加者であるヘッジファンドや年金基金、機関投資家、証券会社、銀行、保険会社など、その多くも、四半期=3ヶ月単位を運用の一つの目安にしていることは、よく知られています。
そして、この四半期=3ヶ月という単位を一つの区切りとして、トレードのチャンスを探るという方法もあります。
今回は、FXで米ドル/円をトレードする際のヒントとして、四半期をベースにしたアノマリー・トレードを説明してみたいと思います。
では、さっそく見ていきましょう。
第一四半期が命運を握る
会社の業績に限ったことではありませんが、人間の行動やマーケットの動きなど、新しい期や新しい年を迎えた後、向こう1年の動向を占うとき、最初の1ヶ月や最初の四半期の動向がその後に大きな影響を与えているということについては、様々な研究結果やデータがあります。
例えば、分かりやすいところで言えば、第一印象がその人を強く印象づける初頭効果や、株式相場ではイェール・ハッシュが考案した1月バロメ-ター(1月のS&Pの動向と年間の相場の動向が80%以上の確率で相関)などがあります。
そして、そうした観点で為替相場を眺めてみますと、FXのトレードにおいても、大きなヒントを与えてくれることがあったりします。
早速、具体的に見ていきましょう。
下は1999年から2015年まで、米ドル/円の第一四半期(1-3月期)の為替の動向に対して、年末の為替相場がどうなっていたのかということを、抽出したデータになります。
まずは第一四半期が円高だった場合をご覧ください。
日付 | 始値 | 終値 | 年初来騰落率 | 3月末来騰落率 |
---|---|---|---|---|
2014年12月 | 118.68 | 119.68 | +13.68% | +15.98% |
2014年3月 | 101.54 | 103.19 | -1.09% | - |
2014年1月 | 105.28 | 102.03 | ||
2008年12月 | 95.4899 | 90.5999 | -18.89% | -9.31% |
2008年3月 | 103.58 | 99.9 | -10.56% | |
2008年1月 | 111.69 | 106.47 | ||
2007年12月 | 111.01 | 111.4899 | -6.34% | -5.34% |
2007年3月 | 118.5199 | 117.7799 | -1.06% | |
2007年1月 | 119.04 | 120.65 | ||
2006年12月 | 115.7799 | 119.01 | +0.9% | +1.1% |
2006年3月 | 115.76 | 117.66 | -0.3% | |
2006年1月 | 117.9 | 117.2699 | ||
2004年12月 | 102.9 | 102.45 | -4.64% | -1.74% |
2004年3月 | 109.05 | 104.26 | -2.95% | |
2004年1月 | 107.43 | 105.71 | ||
2003年12月 | 109.66 | 107.33 | -9.57% | -8.99% |
2003年3月 | 118.2 | 117.93 | -0.64% | |
2003年1月 | 118.69 | 119.86 |
過去17年の間に第一四半期が円高で推移したことは、過去6回。
そして、その年の年末の米ドル/円が年初来で円高に終わったことが4回。
3月末の終値をベースにした騰落率で見ると、円高で終わったことが4回あります。
第一四半期が円高だったことが分かった場合、3月末の終値で米ドル/円を売りでエントリーすれば、約66%の確率で年末にはプラスで決済できるというのは、なかなか興味深いデータです。
では、次に、第一四半期が円安だった場合も見てみましょう。
日付 | 始値 | 終値 | 年初来騰落率 | 3月末来騰落率 |
---|---|---|---|---|
2015年12月 | 123.08 | 120.3 | +0.5% | +0.1% |
2015年3月 | 119.55 | 120.12 | +0.3% | |
2015年1月 | 119.67 | 117.44 | ||
2013年12月 | 102.42 | 105.3 | +21.4% | +11.7% |
2013年3月 | 92.54 | 94.19 | +8.6% | |
2013年1月 | 86.72 | 91.72 | ||
2012年12月 | 82.35 | 86.74 | +12.7% | +4.7% |
2012年3月 | 81.1399 | 82.79 | +7.6% | |
2012年1月 | 76.93 | 76.19 | ||
2011年12月 | 77.5699 | 76.94 | -5.3% | -7.5% |
2011年3月 | 81.8 | 83.15 | +2.4% | |
2011年1月 | 81.18 | 82.0699 | ||
2010年12月 | 83.66 | 81.15 | -12.8% | -13.2% |
2010年3月 | 88.83 | 93.4599 | +0.5% | |
2010年1月 | 92.97 | 90.3 | ||
2009年12月 | 86.2799 | 92.9 | +2.4% | -6% |
2009年3月 | 97.7099 | 98.8099 | +8.9% | |
2009年1月 | 90.6999 | 89.97 | ||
2005年12月 | 119.7699 | 117.9199 | +14.8% | +10% |
2005年3月 | 104.61 | 107.09 | +4.28% | |
2005年1月 | 102.69 | 103.64 | ||
2002年12月 | 122.58 | 118.74 | -9.7% | -10.6% |
2002年3月 | 133.50999 | 132.74001 | +0.9% | |
2002年1月 | 131.55 | 134.56 | ||
2001年12月 | 123.32 | 131.63 | +15.1% | +4.3% |
2001年3月 | 117.29 | 126.2 | +10.3% | |
2001年1月 | 114.33 | 116.33 | ||
2000年12月 | 110.33 | 114.27 | +11.9% | +11.2% |
2000年3月 | 110.18 | 102.75 | +0.6% | |
2000年1月 | 102.11 | 107.36 | ||
1999年12月 | 102.17 | 102.21 | -9.8% | -14% |
1999年3月 | 119.36 | 118.8 | +4.8% | |
1999年1月 | 113.28 | 116.2 |
過去17年の間に第一四半期が円安で推移したことは、過去11回。
そして、その年の年末の米ドル/円が年初来で円安で終わったことが7回。
3月末の終値をベースにした騰落率で見ると、円安で終わったことが6回あります。
第一四半期が円安だったことが分かった場合、3月末の終値で米ドル/円を買いでエントリーすれば、約55%の確率で年末にはプラスで決済できますが、こちらの場合は、確率的にはニュートラルといった結果で終わっています。
それでは、上のデータをもとに、もう少し詳しく、それぞれのケースを見ていきましょう。
第一四半期が円高になったとき
過去17年の間に、円高になった年を見てみますと、2003年、2004年、2006年、2007年、2008年、2014年の6年がそれにあたりますが、それぞれの年は、どんな年だったのでしょうか?
2003-2004年は、日本で金融危機、2007-2008年はサブプライムローンからリーマンショックの金融危機など、振り返れば、6年のうち4年が大きな経済危機に見舞われていたことが分かります。
それは米ドル円の特徴として、マーケットがリスク回避のときには円高が進行し、そしてリスク選好のときには、円安が進みやすいことからも、頷ける内容になっています。
では、第一四半期が円高だったのにも関わらず、年末には大幅な円安で終了した2014年の相場はどう判断すればいいのでしょうか?
背景には、日銀の量的緩和第2弾が実施されたことがありますが、その他の年とは決定的に違う点と言えば、金融危機などの兆候がほとんど見られなかったことが挙げられます。
それを判断する材料として、最も強力な材料となるのは、アメリカの金融政策です。
出典/セントルイス連銀-Effective Federal Funds Rate-
上記はアメリカのFFレートの2000年から2015年の推移ですが、米ドル円が円高だった2003-2004は、米国が利下げの最終局面、2007-2008年は利下げ開始局面だった一方、2014年はアメリカが超低金利政策を実施していまして、利下げ局面ではありませんでした。
ここまでの流れをまとめてみたいと思います。
アメリカが利下げ局面で、米ドル円が第一四半期に円高で推移した場合は、かなりの確率で年末まで円高が続く、しかし、アメリカが利下げを終えているときは、そうとは限らない。
2006年については、下の円安になったときで見ていきたいと思います。
第一四半期が円安になったとき
では、今度は第一四半期が円安で推移したケースを見ていきましょう。
第一四半期が円安で推移した場合は、円高とは異なるように見えますが、その本質は実は大差がありません。
第一四半期が円安だったのにも関わらず、その年末には円高で終わった1999年、2009年、2010年、2011年はいずれも、円安の黄金期(※)の期間外で起こったもので、2000年、2001年、2005年は円安の黄金期の期間内で起こっており、見事に円安で終了しています。
※円安の黄金期とは、「米国の利上げから半年前後~約3年前後」のことを指しておりまして、「米ドル/円の為替相場を2016年から2018年までサイクル分析で予想!」の記事にて詳しく解説しております。
また、ほんのわずかな円高で第一四半期を終えた2006年も、ギリギリ、円安の黄金期に入っていたこともあり、年末に円安で終わっています。
では、2012年や2013年の円安は?となりますと、この2年については米国の金融政策が主導で動いたというよりも、日本が仕掛けた量的緩和により円安になったという、過去の中でも”異例”の2年ということになるかと思います。
ここまでを整理してみたいと思います。
アメリカが利上げを行って「半年前後~約3年前後」の期間内で、米ドル円が第一四半期に円安で推移した場合は、かなりの確率で年末まで円安が続く。しかし、期間外のときはそうとは限らない。
まとめ
「米ドル/円-第一四半期の結果から年末の円高/円安を予測してFXでトレードする方法-」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
第一四半期の結果だけを見てトレードするというのは、さすがに少し難しいですが、米国の金融政策と併用することで、かなり精度が上がることがお判りいただけたのではないでしょうか。
今回、ご紹介した方法以外にも、時間軸をベースにしたFXでのトレードは、組み合わせ次第で様々な方法が考えられるかと思います。
今回ご紹介した方法が、トレード戦略の一助となれば、幸いです。